「弱いからこそ」
半田一登・日本理学療法士協会会長が,第25回参議院議員通常選挙についての総括を発表した。その中で「弱いからこそ,会員を増やし,団結し,与党に自前の政治家を多数輩出し,そして主張して,理学療法士を誇りある医療職にしていかねばなりません」と述べた。ご尤もな話であるが,同時に理学療法士の社会的地位向上や処遇の改善,あるいは日本国民の生活を守るという協会の理念と整合しない可能性を考えたい。もし政府・与党の政策が弱いものを助けないものだったとしたら,どうだろうか。
政府・与党の社会保障政策の根幹にあるものは,消費税率と保険料引き上げによる財源確保である。それは,国民の健康や医療・介護・福祉の地域格差の是正よりも,プライマリーバランス黒字化目標の優先を意味する。社会保障費の伸びの抑制は,平成10(1998)年から始まり,今も続けられている。一方,消費税の導入(平成元(1989)年)理由は,直間比率の是正のためと説明されていたが,いつからか社会保障の財源確保のためとされた。また,消費税率引き上げによる増収分の大半が,政府負債(いわゆる国の借金)の償還に実質的に充てられている。つまり,政治の現場では,社会保障制度の充実は建前である。
その上で,選挙に勝ち,与党に議員を輩出し,他の専門職との争いに勝つという主張に,胸が高鳴る人もいるだろう。しかし,それは,政府・与党が小さくした社会保障のパイの奪い合いを,専門職同士でさせられているという解釈も可能ではないか。その流れの中で,理学療法士だけではなく,医師会や労働組合など多くの中間団体も弱められ,分断されてきたと考えることも可能だろう。必要なのは,デフレから完全に脱却できていない日本にとって,適切な政策は何なのかを踏まえた上での組織代表選出である。また,理学療法士の団結に加えて,他の専門職とも団結し,税収や保険料以外の手段で,追加的な財政支出拡大を訴えるべきではないだろうか。そのために必要なのは,正しい現状認識と議論だろう。
日本の財政を家計に例えて,「国民1人当たり約880万円の借金を抱えている計算になる」は欺瞞である。財政の機能・役割は,家計とは全く異なる。この前提に立たなければ,いつまでも税率や保険料引き上げの議論に終始するだろう。緊縮志向の財政運営という間違ったプラットフォームから与えられた(不適切な)選択肢を選ぶような中間団体では,国民の生活を守るどころか,自分達の生活さえ守れなくなる可能性が高い。弱さとは,会員数の多寡や組織体制の不備などの問題に止まらない。我々が過去に積み上げてきた政治と政策の間違いに気づかない・向き合わないことこそが,本当の弱さなのである。(五)
※「幹事のつぶやき」は広島県理学療法士連盟の幹事が,政治に関する解説,時事批評,エッセイ,書評などを気ままにお届けするものです。是非,感想をお寄せください(hiroshima-info@pt-renmei.info)。なお,本コラムは個人の見解であり,広島県理学療法士連盟の見解ではありません。(広島県理学療法士連盟・令和元年11月27日・第207号)