幹事のつぶやき 「コンクリートも人も」

「コンクリートも人も」

令和元年台風19号が,東日本各地に甚大な被害をもたらした。被害に遭われた方々に,心からお見舞いを申し上げるとともに,一刻も早い復旧・復興を願うばかりである。広島では,昨年の平成30年7月豪雨による土砂崩れや浸水で,多くの犠牲者が出たことが記憶に新しい。そして,それまでの生活は失われ,今でも元の生活に戻れていない人々がいる。凶暴化する自然現象への早急な対応が必要であることは,論を俟たないのではないだろうか。

災害リスクは,ハザード(危機)の規模だけで決まるものではない。その地域の人口の多寡や建物の数といった曝露,およびハザードに対する社会の脆弱性・対応能力の影響も受ける。日本は自然災害大国と言われるが,曝露に関して最も象徴的なのが,現在も続く首都圏への人口集中であろう。過剰な人口集中は曝露の点からリスクを高め,同時に,首都圏の生産活動が停止した場合の代替としての,また復旧・復興のための,地方の供給力を低下させる。首都圏への流入規制と地方への分散促進が本質的な課題であるはずが,そう言った方向性の政策議論はあまり聞かれない。

政権は「コンクリートから人へ」を掲げた民主党から「国土強靱化」を掲げる自民党に移り,7年が過ぎようとしている。国土強靱化のパンフレットには「ソフト対策をこれまで以上に重視する」と書かれている。ソフト対策は非常に重要なものだが,それだけでは不十分であろう。ハード対策に当たる政府の公共事業関係費(当初予算)は,民主党政権では約5.8兆円→5.0兆円→4.6兆円→5.3兆円,安倍政権下の平成26〜30年度までは約5.4兆円(特別会計の廃止に伴う経理上の変更分0.6兆円を除く)であった。本当に「この国を,守り抜く。」意志があるのか,甚だ疑問である。ちなみに,ピーク時の当初予算は平成9年の約9.7兆円であった。

公共事業は,「バラマキ」と揶揄されることがある一方で,短期的な経済効果を好意的に評価されることもある。しかし,公共事業の本質は,社会・文化の下部構造(インフラストラクチャー)を整備することであり,生産性,生活の質,防災・減災能力の向上をもたらすことである。本来,自然災害がなくとも,計画的に増強し続けられるべきものである。それにも関わらず,日本人は「ムダ」として削減を続けてきた。自然災害大国において誰かを見捨てることは,いつか自分が見捨てられる立場になり得ることを意味する。理学療法士は,被災者の廃用予防や健康維持のための支援を通じて,減災にも貢献し得る職業である。必要な時に,必要な人に理学療法を提供するためには,インフラの整備やあり方についても,考えておく必要があるのではないだろうか。(五)

「幹事のつぶやき」は広島県理学療法士連盟の幹事が,政治に関する解説,時事批評,エッセイ,書評などを気ままにお届けするものです。是非,感想をお寄せください(hiroshima-info@pt-renmei.info)。なお,本コラムは個人の見解であり,広島県理学療法士連盟の見解ではありません。(広島県理学療法士連盟情報発信・令和元年10月23日・第205号)