緊急事態宣言,その先に備えよ
令和2年4月16日,同月7日に発出された緊急事態宣言の全都道府県への拡大が決定された。政府の「事業規模」108兆円の緊急経済対策の一部が変更され,1人当たり一律10万円の給付を行う方向性が決断された。政府が経済対策を「事業規模」で発信することに対しては,疑問がある。それが例え安倍晋三総理大臣の言う「世界的にも最大級」であったとしても,である。重要なことは,政府が負債を増やすことであり,民間企業や家計への投資・消費拡大の期待の大きさではない。今回の補正予算で組まれた新規国債発行額は,報道によると約16兆円であった(今後,予算編成のやり直しで増加する)。もし他国と比べて経済対策規模の妥当性を訴えるのであれば,新規国債発行額(あるいはその対GDP比)を用いるべきであろう。そんな状況で,「緊急」経済対策に収束後のGo To キャンペーン事業が盛り込まれたとあれば,首を傾げる人がいてもおかしくはない。
不要不急の外出を避けさせたいのであれば,政府は被雇用者に対する休業補償や事業者に対する粗利補償を行うべきである。これらの施策は,経済対策のように見えるが,その実は防疫対策であろう。しかし,政府がそのような施策を実施する可能性は低いと考えられる。政府の目標は,2025年度のプライマリーバランス黒字化であり,「この目標を放棄するという考えはない」(4月13日,麻生太郎副総理兼財務大臣)からである。政府に足りないのは,国家の構成要素である国民(領域に対しても同様だが)とその生活,経済活動の供給力を守ろうという矜持であるように思われる。足りないのは,総理大臣や閣僚の給与返納の額ではないし,国会議員の歳費返納の額でもない。このような政策は,国内政府部門の支出削減(赤字縮小)であり,民間部門の収入減少(黒字縮小)に働く可能性を有する。我々は,必要のない政策に惑わされるべきではない。
日本は,医療・交通・減災(安全)・防衛などの社会的共通資本への投資を「ムダの削減」と言って抑制し続けてきた国家である。有事になって悔やんでも,後の祭りである。加えて,東日本大震災の数年後に実施された財政政策は,消費税率の引き上げであり,復興特別税の創設であった。今回の混乱の最中あるいは後に,同じ方向性を強化しないとは言えないのではないか。日本の経済的落ち込みの発端が,昨年10月の消費税率引き上げであったとしても,である。また,この混乱の最中に自然ハザードが起こらないと誰が言えるのか。「民衆の圧倒的多数は,冷静な熟慮よりもむしろ感情的な感覚で考え方や行動を決める」。アドルフ・ヒトラー『我が闘争』の一節である。我々は今(常に),歴史に試されているのである。(56)
※「きゅうしん中」は皆様と共に作るコラムです。社会情勢や政治情勢で感じていること,職場環境等で日頃から気になっていること,本連盟や協会等の取り組みに関すること,また書評(書籍や映画等)や趣味に関することを奮ってお寄せください(500~1000字程度,hiroshima-info@pt-renmei.info)。投稿の採否,掲載の時期については,広島県理学療法士連盟にご一任ください。(広島県理学療法士連盟情報発信・令和2年4月22日・第217号)