「無力感との向き合い方」
10月1日,消費税率が10%に引き上げられました。「消費税の増収分は,全て社会保障に充てられる」。よく聞く言葉ですが,非常に曖昧な言い回しです。実際は,消費税率が5%から8%に引き上げられた時,社会保障の充実に使われたのは,増収分の凡そ2割でしかありません。一方で,国民から(デフレ脱却の途中で,インフレ対策である消費税増税によって)集めた税金の多くは,「後代への負担の先送り軽減」に充てられ,国民に還元されませんでした。そして,政府がデフレ脱却を未だに宣言できていないのはご存知の通りです。
「何もしない奴が偉そうに言うな」,「何かを成し遂げてから言え」,「何もしない奴に限って口は達者」。しばしば耳にする言葉ですし,正しい一面があると思います。しかし,これらの言葉は,政治を語る時には適さない可能性が考えられます。このような考えを突き詰めると,政策において,期せずして弱い立場に置かれた人々を切り捨てることに繋がる可能性があるからです。政治は,本来そうさせないためにあるものです。
一方で,政治の前では,我々1人1人はほとんど無力であることを認識する必要があります。世間の「消費増税止むなし」という「空気」の前では,1人が愚痴を言ったって仕方ないのかも知れません。しかし,無力であるからこそ,その不条理と感じるものに対して,何かしらの言葉を発することが,無力な私たちに残された主体性の発露なのではないでしょうか。それさえしなかったら,「空気」に対する思考停止と言われても仕方ない。そもそも,世間の「空気」が正しいとは限らない。
理学療法士の政治活動において,「与党から国会議員を出さないと意味がない」ということがよく言われます。正しい一面はあると思いますが,もし政府与党の政策が日本国民のくらしを守らないものだったとしたら,私たち1人1人はどうするべきでしょうか。自分たちの利益を得るために,押し黙るのか,どうせ変わらないと諦めるのか,それとも行動するのか。どれを選択するにしろ,この「自らの在り方」の積み重ねが,今の政治状況を作り上げているのではないでしょうか。最後に,18世紀の思想家エドマンド・バークの言葉を紹介したいと思います。
「悪が栄える為に必要なのは,善人が何もしないことである」。(五)
※「幹事のつぶやき」は広島県理学療法士連盟の幹事が,政治に関する解説,時事批評,エッセイ,書評などを気ままにお届けするものです。是非,感想をお寄せください(hiroshima-info@pt-renmei.info)。なお,本コラムは個人の見解であり,広島県理学療法士連盟の見解ではありません。(広島県理学療法士連盟情報発信・令和元年10月19日・第204号)