令和8年2月20日、日本理学療法士連盟主催の研修会が開催されました。今回のテーマは「CURE KOBEから考える理学療法士の可能性」。前半は、神戸市を拠点とした地域連携と医療DXの先駆的な取り組みを軸に、岩田健太郎氏(神戸市立医療センター中央市民病院)と間瀬教史氏(兵庫県理学療法士会 会長)の2名による、理学療法の未来を切り拓く熱い講演が行われました。後半は、シンポジウム(パネルディスカッション)として、日本理学療法士連盟の山根一人会長、NPO法人全国在宅リハビリテーションを考える会の安倍浩之理事長、そして講師の岩田健太郎氏、間瀬教史氏の4名が登壇し、理学療法士の職域拡大と地域連携の未来について活発な議論が交わされました。
超高齢社会における理学療法の役割(岩田健太郎 氏)
岩田氏は、日本が世界一の超高齢社会であり、「高齢者リハビリテーションの先進国」であることを強調しました。かつては疾患別のアプローチが中心でしたが、現在は多くの疾患を抱える「多併存(マルチモビディティ)」への対応が求められています。
• 急性期リハビリテーションの重要性
急性期における早期かつ集中的な介入(365日体制)が、入院関連機能障害(HAD)を抑制し、在院日数の短縮やADL(日常生活動作)の改善に直結することをデータで示しました。
急性期における早期かつ集中的な介入(365日体制)が、入院関連機能障害(HAD)を抑制し、在院日数の短縮やADL(日常生活動作)の改善に直結することをデータで示しました。
• 「CURE KOBE」による地域連携とDX
ICTを活用したPHR(パーソナルヘルスレコード)の共有により、急性期から回復期、生活期までシームレスに情報を繋ぐ枠組みを紹介。これにより、退院後の再入院リスクを劇的に軽減し、半年間で約21億円の医療費適正化効果が見込まれることを提言しました。
ICTを活用したPHR(パーソナルヘルスレコード)の共有により、急性期から回復期、生活期までシームレスに情報を繋ぐ枠組みを紹介。これにより、退院後の再入院リスクを劇的に軽減し、半年間で約21億円の医療費適正化効果が見込まれることを提言しました。
• 人材育成(レジデント・フェローシップ)
急性期と回復期の間でスタッフが人事交流を行う「フェローシップ制度」を通じ、互いのリスク管理やプログラムを学ぶことで、地域全体の質を底上げする重要性を訴えました。
急性期と回復期の間でスタッフが人事交流を行う「フェローシップ制度」を通じ、互いのリスク管理やプログラムを学ぶことで、地域全体の質を底上げする重要性を訴えました。
行政・政治との連携で広がる職域(間瀬教史 氏)
間瀬氏は、神戸の成功事例を兵庫県全域、さらには全国へ広げるための政治的・行政的なアプローチについて語りました。
• データに基づく政策提言
兵庫県内の疾患構造の変化(脳血管・運動器から循環器・内部疾患へのシフト)を分析し、リハビリテーションの需要と供給のギャップを明確化しました。
兵庫県内の疾患構造の変化(脳血管・運動器から循環器・内部疾患へのシフト)を分析し、リハビリテーションの需要と供給のギャップを明確化しました。
• 予算獲得と雇用促進
県議会議員や行政への粘り強い働きかけにより、「地域医療介護総合確保基金」を活用した人材育成事業(内部疾患リハ研修)を実現。さらに、県立病院におけるセラピストの大幅増員(10年間で200名規模)という成果を報告しました。
県議会議員や行政への粘り強い働きかけにより、「地域医療介護総合確保基金」を活用した人材育成事業(内部疾患リハ研修)を実現。さらに、県立病院におけるセラピストの大幅増員(10年間で200名規模)という成果を報告しました。
• 「人」による連携の構築
単なる病院間の連携にとどまらず、「臨床経験を通した人と人との連携」こそが重要であるとし、地域ごとにネットワークを構築する「3連(資産・予防・連携)」の構想を掲げました。
単なる病院間の連携にとどまらず、「臨床経験を通した人と人との連携」こそが重要であるとし、地域ごとにネットワークを構築する「3連(資産・予防・連携)」の構想を掲げました。
理学療法士の職域拡大と地域連携の未来について
(パネルディスカッション)
1. 政策提言の到達点と最終目的
山根会長からの「政治的な浸透度と最終的な目的は何か」という問いに対し、間瀬氏は以下の回答を示しました。
• 浸透度: 兵庫県内での行政・議会への働きかけは着実に進んでおり、厚生労働省も神戸の動きに注目している。
• 最終目的: 高齢者であっても、急性期から回復期、生活期までシームレスに、必要な人に必要な量の理学療法を適切に提供できる体制を構築することである。そのためには、「人の育成」と「連携」のクラスターを各地域に形成することが不可欠であると述べました。
2. 在宅リハの充実と人材育成(レジデント・フェローシップ)
安倍氏は、複合的な疾患を抱える高齢者が増える中で、特定の部位だけでなく全身を管理できる人材の育成が急務であると指摘しました。 これに対し岩田氏は、アメリカの事例を参考に導入している「レジデント・フェローシップ制度」の意義を強調しました。
• 多職種連携の基盤: 医師や看護師と対等に議論できる能力を養うには、急性期の厳しい現場での経験が重要である。
• 人事交流のメリット: 病院間での人材交流は、スタッフの成長だけでなく、診療報酬上のメリットや地域ネットワークの強化にも繋がり、経営的にもプラスになる。
3. 公立病院を動かすアドボカシー(政策提言)戦略
会場にいた日本理学療法士協会の佐々木嘉光副会長も議論に加わり、公立病院の体制を変えるための具体的な戦略が提示されました。
• 事前の行政調整: 政治家への働きかけだけでなく、まずは行政の担当官と現状を共有し、「一緒にやる」土壌を作ることが重要である。このプロセスを怠ると、官僚側が抵抗勢力となり、実効性のある答弁や予算獲得が困難になるリスクが指摘されました。
• 都道府県士会の役割: 予算の枠組み(基金など)は中央ですでに確保されているため、それを自治体で活用させるための士会レベルでの提言活動が鍵となります。
4. 未来への決意
議論の締めくくりとして、岩田氏は「診療報酬の追い風がある今こそが変化のチャンスであり、10年後を見据えて現場が意識を変えて動かなければならない」と訴えました。 山根会長は、兵庫県や神戸市の先駆的な取り組みを「国民を幸せにするための穴を埋める活動」と評価し、協会と連盟が一体となってこのモデルを全国に普及させていく決意を述べ、シンポジウムを締めくくりました。

